40年超も据え置きだった食事代補助の上限金額が上がる?

人手不足が叫ばれる昨今、自社の採用力を高めようと福利厚生施策に頭を悩まされる経営者の方は多いのではないでしょうか。福利厚生策の一環として用いられることがある社員食堂は税務上は食事代補助として扱われ、要件を充たすもののみが所得税法上で非課税となります。食事代補助についてはやや分かりにくい規程の構造となっていて、ネットニュースのコメント欄を見ていたら、誤解されている方が多い印象です1

●社員食堂が再び着目されている?
さて、食事代補助の一つとして多く用いられる形式に社員食堂があります。自社内に設けた食堂スペースにて従業員に割安な価格で食事を提供するというものです。社外の飲食店で食べる場合との差額を企業側が食事代補助の名目で福利厚生費等の経費計上することで、従業員は少ない負担で食事を摂ることができるというイメージです。原則的には、事業者が被雇用者(従業員)に食事を支給した時は現物支給として課税対象となりますが、一定のケースでは従業員側で給与所得とされず非課税にすることができます。

社員食堂のイメージ(画像出典:photoAC)

社員食堂は物理的にスペースを要したり運営費が掛かったりというデメリットから、一部の大企業等を除けば一時は減少していた印象がありますが、近年において再び着目されています。背景としては、前述のように従業員側で給与所得課税の対象とならないため、課税対象となる手当として支給するより食事代負担を抑えられ、食費を中心とした物価高騰が続く近年において再び着目されているわけです。雇い主である企業側にとっても単に食事手当として支給して従業員側で課税対象(給与所得)になってしまうより、従業員の満足度を上げられるという点で、従業員と企業の双方にメリットがあります。そのため、人手不足の現代において従業員を惹きつける福利厚生施策として企業が再び回帰しているというわけです。

●食事代補助が従業員側で課税されないようにするには?
この食事代補助ですが、給与所得課税されないためにはいくつかの要件があります(2025年9月現在)。
①. 食事代の半分以上を従業員が負担すること
②. 食事代から従業員が負担している金額を控除した金額が1か月当たり3,500円以下であること
※参考・国税庁Webサイト2

イメージしやすいように、いくつか数値例を出してみましょう。数値は1か月の金額と考えてください。
(A)食事代:7,000円、従業員負担:3,500円
(B)食事代:12,000円、従業員負担:5,000円
(C)食事代:8,000円、従業員負担:4,000円
(D)食事代:9,000円、従業員負担:6,000円
上記の内、従業員側で給与所得として課税されない(非課税となる)のは(A)と(B)です。(A)は分かりやすく、食事代の半分を従業員が出しており、かつ1か月の補助金額(7,000円-3,500円)が3,500円に収まっているため、前述の要件①②を充たします。同様に、(D)も従業員負担(6,000円)が食事代の半分(4,500円=9,000円÷2)以上であり、食事代(9,000円)から従業員の負担額(6,000円)を控除した金額が3,000円となるため、要件①②を充足します。

(B)は食事代の半分(6,000円=12,000円÷2)以上を従業員が負担しておらず、かつ食事代から従業員負担を控除した金額(7,000円=12,000円-5,000円)が3,500円を超えるため、要件①②とも充足しません。(C)は食事代の半分(4,000円=8,000円÷2)以上を従業員が負担しており要件①は充たしますが、食事代から従業員負担を控除した金額(4,000円=8,000円-4,000円)が3,500円を超えるため要件②に該当しません。

●現状の補助金額は妥当な水準か?
上で述べた4つのケースを見れば分かるように、ケース(A)の3,500円補助が現状の所得税制における食事代補助の限界となるわけです。仮に1か月の勤務日数を20日(=5日/週×4週)とすると、この3,500円を日割りした金額は175円となります。食料品の価格高騰が止まらない昨今、1日当たり175円の補助では従業員側の負担は大して軽減されないことが分かります。この3,500円という上限が決められたのが1984年という、物価水準が現在より低い40年超も前のため、見直すべきだというのが冒頭に取り上げたネットニュースにおける論調というわけです。

報道によれば、現状の非課税枠上限である3,500円を6,000円程度まで引き上げるべきとの提案がなされたということです。6,000円を20日で割ると1日当たり300円の補助が受けられるという計算になります。もし提言通りに実現されれば現行の3,500円よりは従業員負担が楽にはなりますが、都心等では昼食代が1,000円を超えることも珍しくないため、月額6,000円でもまだ十分な水準かは一考の余地があります。

  1. 2025年9月7日掲載Yahoo!ニュース『「社食補助」拡大を議論へ 非課税限度額40年超据え置き 税制改正』、時事通信『「社食補助」拡大を議論へ=非課税限度額40年超据え置き―税制改正』参照 ↩︎
  2. 国税庁「タックスアンサー No.2594食事を支給したとき」、「給与等とされる経済的利益↩︎