内部統制とIPO

真面目な記事を2本続けてみます。今回はPwCのシニアアソシエイト時代にIPO(Initial Public Offering=新規株式上場)監査を経験した身として、内部統制とIPOの関係について触れてみたいと思います。

会計監査上、何かと議論に上がることが多いのが内部統制です。内部統制とは、企業が財務諸表の信頼性の確保や事業運営の効率性の向上、法令遵守の促進といった目的で整備する仕組みです。もう少し具体的に言うと、契約締結や請求書発行といった日常の業務処理過程で、上長によるチェック、承認等を行うことで、会社という組織内で相互牽制を図る体制を構築する仕組みを導入することをいいます。
目的の一つに財務諸表の信頼性の確保が挙げられていることがあり、会計監査上もこの内部統制が適切に整備され、運用されているかという観点が議題に上ることが多いです。

上場会社においては、現行の制度上、企業自らによる内部統制報告制度及び監査法人による内部統制監査制度がセットになって義務付けられています(いわゆるJ-SOXです)。このJ-SOX、既に上場している会社にとっては、仮に何かしらの指摘を監査法人から受けたとしても、内部統制監査制度上で不適正意見が表明されることはあまりなく、実質的に形骸化しているという指摘もあります。

実質的にこの内部統制が最も厳格にチェックされるのがIPOのタイミングではないかと個人的に思います。IPO準備企業が実際に上場した直後、現行制度上は3年間内部統制監査が免除されるという規定があるので、関係ないだろうと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、IPO準備企業が実際に上場する前において、組織内において日常の業務処理で会計監査(ここでは財務諸表監査のことを指すこととします)で会計処理の証跡として必要とされる契約書であったり請求書、検収書といったものが完備されていないと、会社が上場した後の会計監査を日本公認会計士協会のレビュー等を受けた際に監査法人がNGを出されることが想定されます。

そのため、監査法人もそういった書類を会社が揃えた上で日常の経理記帳を行っているかについて、かなり神経質になります。例えば、実際のところ、売上を記帳するのに取引先から検収書の入手まで行っていないというケースはそれなりにあると想定されますが、会計監査上は検収書のない売上をスルーするのは難しいため、IPOを行う過程でこれらを完備したうえで記帳する体制に移行するように監査法人から促されることは多いです。